『石中先生行状記』見終わった。成瀬巳喜男監督の1950年作。石坂洋次郎原作。作者の分身である作家の石中先生の見聞という形で、青森の田舎の若い男女とそれを取り巻く人々の話を、ユーモアや詩情を交えて描いた三編のオムニバス。清々しい雰囲気と説話的な素朴さに、見ていて思わずほっこりする佳品。
posted at 03:36:47
時勢を反映した風刺要素がある、戦時中に埋められたガソリン缶の行方を巡ってリンゴ園の娘とのロマンスが描かれる第1話と、町にヌードダンス公演がやってきたことで親子それぞれにおかしな騒動が起きる第2話も良いけれど、やはり白眉は荷車の間違いが男女の出会いを生む素朴な第3話が白眉か。
posted at 03:42:38
この第3話、とにかく明るく可愛い若山セツ子と、女子の前だと無口になってしまう朴訥青年の三船敏郎の組み合わせが抜群。特に後者の可愛らしさといったら…!女子を意識して、身だしなみを整えるためにヒゲを剃るという、私にとってのガッカリ展開があるにも関わらず、そのハンデを乗り越える良さが。
posted at 03:47:23
他愛のない話といえばそうなのだが、その他愛のなさが心地よい。同じ若山セツ子が出演し、プロデューサーも同じだという『青い山脈』ネタの楽屋落ち的な場面も2ヶ所あるのだが、そんな他愛のなさすらも、心地よさを後押ししてくれる感じ。おかげで後味もすこぶる上々に。
posted at 03:54:36
演出は実に手堅く、これといって派手なわけではないけれど、第1話の齧りかけのリンゴが2つ落ちることによる接吻の暗示とか、第2話のカメラの横移動による座敷の切り替えとか、第3話の町に出た田舎娘が直前できれいな下駄に履き替える場面とか、やはりあちこち細部の巧さが光る。
posted at 03:58:59